2025.06.03
世界中から怪我をなくしたい
ONE MORNING「 The Starters 」
火曜日のこの時間は社会に風穴を開けようと取り組む若き起業家をお迎えして
そのアイデアの根っこにあるものや未来へ向けたビジョンを伺います。
今週のゲストは先週に引き続き、株式会社Magic Shields 代表取締役CEOの下村明司さんです。
下村明司さんは神奈川県のご出身。ヤマハでバイクの研究開発に従事し、同時にプライベートで人を守る発明活動を行い、その後、2019年株式会社Magic Shieldsを創業されています。
先週は、主な事業内容について伺いました。
今週は、下村さんがMagic Shieldsを創業されるまでについて伺っていきたいと思います。学生時代はどういった生活を送っていたんですか?
「当時流行っていた『AKIRA』や『攻殻機動隊』などのSFにハマり、それがきっかけで大学では機械工学の道に進み、ロボットの研究をしていました。六本足で歩いて、瓦礫の間に入っていったり物をどかしたりしながら人を探すレスキューロボットの研究をやっていましたね。」
今でもそういった研究は進められていますよね。実際に、災害現場で瓦礫が崩れるかもしれないという時に、ロボットが入っていって救助活動をしているのを見ますね。
「僕がその研究をしていたのは25年ぐらい前なので、そういったレスキューロボット開発の走りですね。」
その後、ヤマハでバイクを作っていたということなんですが、どういった経緯でヤマハに入られたんですか?
「次は実際に人が乗って移動できるものを作りたいということでバイクの方に行きました。そもそもバイクが好きで、中でもスポーツやレースが好きだったので、仕事でもオフロードのレース用の車両の開発をやっていました。」
オフロードのバイクってジャンプしたり、険しい道を走ったりとすごいですよね。
この頃から転倒時にうまく車体を潰す研究開発もされていたということで、それが今につながっているのかなと思うんですが、具体的にどういった内容だったんでしょうか?
「私が専門にしていたのは、100mほどのものすごい距離をジャンプするようなバイクでした。転ぶ時ももちろんあるので、車体をうまく潰してあげないと、エンジンを痛めてしまったり、ライダーを傷つけてしまったりすることがあるので、そういったところからモノをどうやって壊すかというような研究をやっていました。」
なるほど。「バイクを頑丈に作ればバイクは守れるけど、乗っていた人に衝撃が来すぎてしまうから、逆にちゃんとうまく潰れる。その後、そのバイクが使えなくなってしまうかもしれないけど、人の命は守れる」という考え方もありますよね。そういった衝撃吸収の開発が、まさに今、この「ころやわ」マットにつながっているというわけですね。
それと並行していろいろと発明もされていた時期があったと伺いました。
「はい。先ほどもお話しした通り、僕はバイクが好きで、レースもアマチュアで出ていました。ある時、友人を事故で亡くしたことがあり、そういったところから、人を守る発明というのをプライベートで少しずつやっていました。」
過去の発明でどういったものがありますか?
「例えば、洪水や豪雨などのニュースを見た時に、「これ、雨から人を守れないかな」ということで、車体から台風以上の風を出して雨を全部吹き飛ばすというバイクを作ったりしていましたね。」
お話を聞いていると発明家的な要素もすごく感じますね。こういった発明をビジネスにつなげていくというのがやはり難しいんだろうなとに思うんですが、「ころやわ」を始めたきっかけを教えてください。
「人を守る発明を、先ほど申し上げた以外にも10個ほどいろいろ作っていて、10年ほど経った時に、「プロトタイプはいろいろ作ったものの、結局誰も守れてない」という現実に気づきました。やはり、こういった発明をたくさん作って世界中に届けるには、お金がかかる。ちゃんとビジネスにしないと、実際に人を守るということにはならないということに気づき、そこで経営学の大学院に行くようになりました。」
そこで新たな学びや出会いはありましたか?
「後の共同創業者となる、杉浦という理学療法士と出会いました。彼が病院で、転倒して骨折した患者さんのリハビリをしていたので、そこから「お年寄りの転倒」という課題に取り組むことになりました。」
転倒しないような器具ではなく、床の方を変えようと思われた発想の転換はどこから来たんでしょうか?
「当時いろいろ調べた中で、体につけるハイテクなデバイスはいろいろなものがあるんですが、実際に高齢者の方々がそれを使えるかというと、使いこなせないし、そもそも嫌がってしまうんですよね。これをどうしたらいいか考え、「気持ち良い生活空間でありながら、安全機能の部分は隠してあげる」となったのが、この床に至った経緯ですね。」
この床の利用者にとっては、いつも通りの変わらない生活ですもんね。
この「ころやわ」の開発で一番苦労したことは何でしょうか?
「最初は、どれぐらい硬くすれば皆さんがちゃんと歩けるのかが分からないですし、どれぐらい柔らかくすれば骨折を防げるかもわからない。体格も骨の強さも人それぞれ、転び方もいろいろあります。その中で、多くの方を救える線引きを医学的に進めていくことが苦労したところですね。」
ちょうどいい硬さを見つけるまでどういった実験を行っていたんですか?
「最初は計測方法もまだ確立してなかったので、新しい床材を見るたびにそこら中で転んで回って、まずは自分の体で評価していましたね。」
転ぶ痛みを知っているからこそ、この「ころやわ」ができたんですね。
今後、改良を加えたり、新しく作りたいと考えているものは何かありますか?
「まずはこの安全な床を世界中に普及させるというのと、今センサー付きのものを昨年から提供を開始しています。歩いたり転んでしまったりしたのを検知して、ご家族や看護師さんにお伝えするというシステムです。」
センサーによって、一人暮らしのご高齢の方も歩いているか確認できるだけでも、ご家族は安心できますよね。
カビなど衛生面での心配はないんですか?
「大丈夫です。断熱効果もあり、冬でも暖かいです。一回床に張ってから10年ほど持ちます。」
最後になりますが、これからの夢を教えてください。
「世界中からすべての怪我をなくすことです。」
株式会社Magic Shields 代表取締役CEOの下村明司さんにお話を伺いました。ありがとうございました。